私が娘に初めて絵本を読み聞かせたのは、生後4か月のころでした。
きっかけは、自治体の4か月健診でいただいた一冊の絵本、『じゃあじゃあびりびり』です。
それまでの私は、「赤ちゃんに絵本を読む」ということを、あまり意識したことがありませんでした。私自身、子どものころ、母がとても忙しく、絵本を読み聞かせてもらった記憶がほとんどなかったからです。
「まだこんなに小さいのに、わかるのかな」
そんな気持ちを抱きながら開いた、娘との最初の1ページ。けれど、そのときの娘の顔を、私は今でも覚えています。
小さな目が、絵を追いかけていた
娘は、絵本をじっと見つめていました。ページをめくると、その絵を目で追いかける。私が声を出して読むと、小さな耳で一生懸命に聞いているようでした。
不思議なことに、ぐずっていたときでも絵本を開くと泣き止むことがありました。絵に夢中になって、声に耳を澄ませる娘の姿に、私は驚きました。
「赤ちゃんって、こんなにも絵本を見るんだ」
その日から、読み聞かせは少しずつ毎日の習慣になっていきました。
読んであげているつもりが、癒されていたのは私だった
毎日、毎日、絵本を読みました。娘のために始めた読み聞かせでしたが、続けていくうちに、不思議と私自身の心も癒されていったのです。
忙しい日も、少し疲れた日も、絵本を開いて娘と一緒にいる時間だけは、ゆっくりと流れているように感じました。
言葉がまだ上手に話せない娘は、絵本を読み終わるたびに「で」と言うようになりました。何度も繰り返されるうちに気づきました。それは「読んで」――もう一回、読んで、という娘なりの言葉だったのです。
うれしくて、同じ絵本を一日に何十回と読んだこともありました。
絵本の言葉が、娘の中に静かに積み重なっていく
もう少し大きくなると、娘は遊びながら何やらぶつぶつと独り言を言うようになりました。よく聞くと、それは絵本の中のフレーズ。何度も聞いた言葉を覚え、日常の中で自然と口にしていたのです。
絵も、言葉も、声も。そのとき感じたもの全部が、小さな心の中に少しずつ残っていく――子どもの育つ過程を、そんなふうに実感した出来事でした。
絵本棚の前で眠っていた娘
今でも忘れられない光景があります。
台所で食事を作っていたとき、それまで聞こえていた娘の声が、急に聞こえなくなりました。
そっと覗きに行くと、娘は一人で絵本棚の前に座り、何冊も取り出してページを広げていました。そして、広げた絵本の上に顔を伏せて、そのまま眠っていたのです。
その姿を見たとき、ギューッと抱きしめたくてたまらなくなりました。絵本は、いつの間にか娘にとって、とても身近なものになっていたのだと思います。
10歳まで続いた、二人だけの時間
生後4か月から始まった読み聞かせは、娘が自分で文字を読めるようになってからも続きました。
寝る前になると、二人でゴロンと横になって絵本を読む。自分でも読めるはずなのに、それでも読み聞かせの時間は終わりませんでした。
ときには、読んでいる私のほうが先に寝てしまい、娘に肘でツンツンと起こされる。「まだ終わってないよ」と続きを催促されながら、また眠たい目で読み始める――そんな日々さえ、今では懐かしく愛おしい記憶です。
読み聞かせを一緒にしたのは、娘が10歳になるころまで。約10年間続きました。
絵本は、親と子の時間をつなぐもの
今振り返っても、絵本から娘が何を学んだのか、すべてを知ることはできません。
けれど一つだけ分かるのは、あの時間は娘だけのためのものではなかったということです。同じ絵を見て、同じ言葉を聞いて、笑ったり驚いたり、眠くなったり。絵本を間に置きながら、親子で同じ世界に入っていました。
「読み聞かせは子どものためにしてあげるもの」と思われがちですが、私自身、娘に読んであげながら、たくさんのものを受け取っていたのだと思います。
今度は、私が絵本を届ける側へ
あれから長い年月がたち、今、私は自分で絵本をつくるようになりました。
4か月健診でもらった、たった一冊の絵本。そこから始まった読み聞かせが、長い時間を経て「自分も絵本をつくってみたい」という今につながっています。
だから私がつくりたいのは、ただきれいな絵が並んでいる本ではありません。子どもが「もう一回」と思ってくれる本。お母さんやお父さんの声で読んでもらいながら、安心できる本。そして、読んでいる大人の心にも、ほんの少しやさしいものが残る本です。
そんな想いを胸に、この夏、初めての絵本『ゆめのドア』を出版しました。
あの日、生後4か月の娘に絵本を開いた私が、今度はどこかで、親子に読んでもらう絵本をつくっている。不思議でありながら、とてもうれしく感じています。
花や鳥、月や星、海や森。自然の中にあるたくさんの命を通して、
あなたはあなたのままでいい。生まれてきた命は大切なんだよ。
そんなことを、言葉で教えるのではなく、これからもつくっていく物語の中から、そっと感じてもらえたらと思っています。
いつか、どこかのお家で、私の作った絵本を広げながら「もう一回読んで」と言ってもらえたら。そして、その隣にいるお母さんやお父さんが「またなの?」と言いながらも笑って、もう一度最初のページを開いてくれたら。
これほどうれしいことはありません。
振り返れば、あの日の一冊と娘との時間が、今の「花ことり」の原点なのだと思います。
『ゆめのドア』
生後4か月の娘との読み聞かせから生まれた、初めての絵本です。子どもが「もう一回」と思ってくれる本、そして読んでいる大人の心にも、ほんの少しやさしいものが残る本になれたらと願いながらつくりました。
Amazonにて発売中です。よろしければ、手に取っていただけたらうれしいです。
【ゆめのドア はこちら】
https://www.amazon.co.jp/dp/B0HDJZYS3Y?tag=amarare-22&linkCode=ogi&th=1&psc=1
花ことり 絵本シリーズ
百瀬 彩也香


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